A 日本語の文字に関する用語について
1 日本語の文章を構成する文字体系は、おもに次の3種類である。
わじ【和字】 A Japanese syllabic character
日本に発生・発達した文字。
ひらがなとカタカナ。
かんじ【漢字】 A Chinese character
中国語を表すため、漢民族の間に発生・発達した表意文字。
日本で独自に作られた漢字を「和製漢字」という。
おうじ【欧字】 A European letter
古代ローマ人がラテン語を表記するのに用いた表音文字。
その後もヨーロッパを中心に多くの国語を表記するのに用いられている。
ローマ字。ラテン文字。
2 日本における漢字の用法には、つぎの2種類がある。
まな【真名・真字】 Chinese character to make it adjust to Japanese by right method
仮名に対して真の字の意で、漢字の楷書をいう。男手ともいう。
かな【仮名・仮字】 Chinese character to make it adjust to Japanese by temporary method
「かりな」の転「かんな」の撥音無表記で、漢字を日本語独特の音節に転用してもちいたもの。
真仮名(万葉仮名)および草仮名をいう。
3 漢字としての仮名の書体には、真仮名(別称万葉仮名)と草仮名がある。
まがな【真仮名】 A Chinese character of temporary written in the block style
漢字の表す意味とは関係なく、漢字の音や訓をかりて国語の音を表記するのに用いた漢字をいう。
万葉仮名(A Chinese character of temporary use to be seen in Manyoshu tanka collection)ともいうが、
万葉集に多く用いられているからである。
そうがな【草仮名】 A Chinese character of temporary written in the cursive style
草書体に書きくずした万葉仮名。草。
4 和字となった仮名には、ひらがなとカタカナがある。
ひらがな A Hiragana character of a Japanese syllabic character
漢字・草体から作られた草仮名(そうがな)をさらに簡略化したもの。
平安初期から中期にかけて発達したといわれる。女手(おんなで)ともいう。
ひらがな異体字(A variant character of a Japanese syllabic character)とはひらがなのひとつだが、
現在普通に用いられているひらがなとは異なる字体のひらがなをいう。
特に、明治33年(1900年)の小学校令施行規則で採り上げられたひらがな以外の異体のひらがなで、
変体仮名ともいう。
カタカナ A Katakana character of a Japanese syllabic character
「カタ」は不完全の意で、漢字の一部分を用いるところから、
万葉仮名として用いた漢字の偏・旁・冠・脚など、その一部を取って作り出された音節文字。
「阿→ア」「伊→イ」「宇→ウ」の類。平安時代に訓点が用いられるようになってから、
その記入用として発達したといわれる。
5 わが国における漢字の読み方に、音読と訓読がある。
おんどく【音読】 Pronunciation in Japanese of Chinese character
漢字を字音で読むこと。おんよみ。
くんどく【訓読】 Translation in Japanese of Chinese character
漢字を字訓で読むこと。その意味にあたる日本語の読み方で読むこと。
「花」を「はな」、「草」を「くさ」と読む類。くんよみ。
※漢文を日本語の文法に従って訓点をつけて読むことも「訓読」という。
じおん【字音】
漢字の読み方のひとつ。日本に伝来して国語化した漢字の発音。
その音の伝来した時代の新古により、また、その音のもとになる中国語の方言の違いなどにより、
同一漢字にも各種の音のあるものがある。呉音・漢音・唐音などが主なもの。
じくん【字訓】
漢字の日本語としての読み。その字の意味にあたる日本語が読み方として固定したもの。
B 日本語の文章に関する用語について
1 日本文と、和文・漢文・欧文
にほんぶん【日本文】
日本語で書かれた文章。日本語の文。国文、和文、邦文ともいわれる。
日本語を漢字だけで書いた文章、日本語のローマ字表記も日本文である。
わぶん【和文】
和語を主とし、特にひらがなを用いて書かれた文章。平安時代の和歌・物語・日記などにみられる文章。
かんぶん【漢文】
中国古来の文語体の文章を日本でいう称。また、日本人がそれに倣って書いた文章。
ただし日本語を漢字だけで書いた文章(中国語ではない)は漢文ではなく「日本文」である。
おうぶん【欧文】
ヨーロッパ諸国で使われる言語による文章。
日本語のローマ字表記(欧米語ではない)は欧文ではなく「日本文」である。
2 日本語の形態的文章様式
かなぶんたい【仮名文体】
安乎尓余志奈良能美夜古尓多奈妣家流安麻能之良久毛見礼杼安可奴加毛
これは漢字をかりて音節文字として使用した臨時の文字「仮名」である。
真書(楷書)でかいたとき「真仮名」あるいは「万葉仮名」といい、草書でかいたとき「草仮名」という。
奈良時代には、日本語の文法に従い、
もっぱら真仮名(万葉仮名)・和語だけで書かれた文章様式である「仮名文体」で書かれた。
わぶんたい【和文体】
あをによしならのみやこにたなびけるあまのしらくもみれどあかぬかも
ひらがなにするとこのようになる。
日本語の文法に従い、ひらがな・和語を主として、わずかに漢字・漢語をまじえることのある文章様式を
「和文体」といい、この系統の文章を「和文体系統」という。
かんぶんたい【漢文体】
子曰學而時習之不亦説乎有朋自遠方来不亦樂乎人不知而不慍不亦君子乎
これは中国語の文法にしたがって漢字・漢語で書かれた正規の文字「真名」である。
これをわが国では「漢文体」といい、日本語の文法に従って訓点をつけて読んでいる。
しだいに漢字をもちいた日本語で書かれた文章様式「漢化和文」があらわれたが、これは漢文体ではない。
かんじカタカナまじりぶん【漢字カタカナ交じり文】
子曰ワク、学ビテ時ニコレヲ習ウ、亦説バシカラズヤ。朋アリ、遠方ヨリ来タル、亦楽シカラズヤ。
人知ラズシテ慍ミズ、亦君子ナラズヤ。
漢文体を訓読して、漢字カタカナ交じり文にするとこのようになる。
漢文体から漢字カタカナ交じり文に発展した系統の文章を「漢文体系統」という。
かんじひらがなまじりぶん【漢字ひらがな交じり文】
子曰わく、学びて時にこれを習う、亦説ばしからずや。朋あり、遠方より来たる、亦楽しからずや。
人知らずして慍みず、亦君子ならずや。
漢字カタカナ交じり文のカタカナをひらがなに置き換えるとこのようになる。
「和文体系統」と「漢文体系統」が統合して、現在の「漢字ひらがな交じり文」が成立したと考えられる。
C 日本語の語彙に関する用語について
1 和語・漢語・洋語
わご【和語】
和語とは、日本語の語彙のうち、外来語(漢語・洋語)に対して
もともと日本で古来から使われてきた固有語のことをいう。
語彙面では、漢字の訓読みが和語に対応する。
寺(てら)・馬(うま)・梅(うめ)は古代朝鮮語・古代中国語からの借用形の変化であって
厳密には固有語ではないが、古代の漢語輸入以前の借用語は慣習上和語に分類される。
かんご【漢語】
外来語としての漢語とは、日本語のなかにとりいれられた中国語起源の語彙と、
それらの単語をもとに日本で独自に造語された中国語風に発音する語彙のことである。
日本語のなかで、字音でよまれる語、および字音でよまれる漢字からなる熟語をさす。
菊(キク)・肉(ニク)・蜜(ミツ)なども漢語である。
ようご【洋語】
洋語とは西洋語を起源とする外来語で、それをくみあわせるなどして日本でつくった語彙をふくむ。
現在では一般にカタカナで表記される。
ふるくは十六世紀にポルトガル語からはいってきたtabaco(タバコ)、
江戸時代にオランダ語からはいってきたglas(ガラス)などがある 。
本格的に洋語が日本にはいってきたのは明治維新以降で、
tunnel(トンネル)などの英語、karte(カルテ)などのドイツ語、
dessin (デッサン)などのフランス語起源のものがおおくつかわれている。