ふでづかい
「ち」「り」などに代表されるようにうねりをもった筆遣いになっています。同様に「は」「ほ」なども曲線的になっています。書写されたものですが、やや装飾的な印象をもちます。「あ」「の」「め」などは比較的ゆったりとした運筆で、正円にちかい「まわし」です。カタカナの「ソ」「ツ」「ン」なども深い曲線を描いています。

まとめかた
 字型で考えるとその差は大きくはないようですが、それでも自然な組み立てを保っています。全体的に動的なイメージがあることもあり、和字書体の分類でいうと「ひのもと・いぶき体」のカテゴリーに入れるものと考えています。

ならびかた
 もともとの清朝体(楷書体)との混植を考慮し、現代の明朝体に比べてやや小さめの字面に設定しました。

青山進行堂
 青山安吉(1865—1926)は一成舎という印刷所に奉公し、19歳のとき職工として従事した。1888年(明治21年)、24歳のとき啓文社に入り、さらには大庭印刷所に勤務した。大庭印刷所の罷業にさいして、安吉は独立して事業を経営することを決意した。
 苦労を重ねて木製の小型印刷機1台を求め、大阪市南区笠屋町で名刺やハガキの印刷を中心とした印刷業を開始したのは1889年(明治22年)、安吉が25歳のときであった。これが青山進行堂の創業である。

 原資料は、『富多無可思』(青山進行堂活版製造所、1909年)の青山安吉による「自叙」です。この約300ページにもおよぶ線装(袋とじ)の書物は、青山進行堂活版製造所の創業20年を記念して発行されたもので、活字の見本帳であり、印刷機械などの営業目録でもあります。
 青山安吉による「自叙」が12ページにわたって書かれています。これは青山進行堂活版製造所の20年の沿革史であるとともに安吉の自伝といえるものです。これは四号楷書体活字で組まれています。書体見本、営業目録などのあと、竹村塘舟による「跋」があります。職工から独立して起業し成功した安吉にたいする賛辞がのべられています。これは四号明朝体活字で組まれています。四号楷書活字と四号明朝活字は、名称がことなっているだけでまったく同じものです。見本のレイアウトも共通しています。
 五号明朝活字と六号明朝活字は『活版見本』(株式会社東京築地活版製造所、1903年)にある「仮名書体見本」と共通するものです。東京築地活版製造所でも明朝活字と楷書活字と組み合わせる和字書体は共通の書体です。


■組み見本

 ひらがなと同じように、カタカナも全体的に全体的に円形がかんじられます。このような特徴をつねに念頭に置きながら、大きさ、太さなどを調整していきました。
「ヰ」は東京築地活版製造所の四号活字などを参考にして新たに制作しました。
 そのうえで、大きさをそろえたり、太さをそろえたり、寄り引きをなくしたりというような精緻化をしていきました。

漢字書体は、
 左:蛍雪
 中:金陵
 右:龍爪

『わすれなぐさ』
(吉屋信子著、河出書房新社・河出文庫、2010年)

 東京都立中央図書館所蔵の『富多無可思』(青山進行堂、1909年)の83ページに四号楷書体活字として必要なキャラクターがそろっていましたので、この電子複写物を復刻のための資料としました。
 復刻において、いちばんたいせつなのは書風を把握することです。たんにそのアウトラインをそのまま写し取ることではありません。書風を把握するためには資料となった書物をよく見ることが必要です。
 この書体は全体的に円形がかんじられます。
「ね」「ま」の縦に引き下ろす線も弓なりになっていますし、「み」「る」などのかえしの部分もまた鋭角ではありません。「さ」「ら」「を」などはうねるような筆法です。こういったところも豊艶な書風をかたちづくる要因だと考えられます。
 全体的に大きさ、太さなどを調整していきましたが、このような特徴をつねに念頭に置きながら作業をすすめていきました。
「え」「お」「そ」は、東京築地活版製造所の四号活字などを参考にして新たに制作しました。また「し」「と」は現在ではなじみのないかきかたですので、少し修整しました。

『たられば 1st STORY』
(ユウ著、主婦の友社、2011年)