筆法
横画の収筆や曲折に「龍爪」とよばれる特徴が強調されています。この特徴により、書体の名称を「龍爪」としました。
縦画の起筆にみられる「蚕頭」の筆法は、さらに強靱になり、「龍爪」に相対するような筆法になっています。躍法は強く鋭くなっています。磔法は鋭く長くの「燕尾」の筆法になっているようです。顔真卿「多宝塔碑」の「蚕頭燕尾」といわれる筆法は、『周礼』にいたって「龍爪」とよばれる刊本字様へと変化したといえます。これは工芸の文字として整理がすすんだことをあらわしています。

結法
唐代初期の楷書にくらべると少し正方形で抱懐が広くなっています。主要な横画ではほぼ6度の右上がりの傾斜角がありますが、横画の収筆の「龍爪」が大きく下がっているために安定感があります。
もうひとつの特徴として、向勢であることがあげられます。向勢とは、例えば「同」の外側の縦画が互いに向き合う結法です。向勢の場合、抱懐は必然的に広くなります。横画が細く、縦画が太く、筆画のコントラストがいくぶん強くなっています。これにより雄大で力強い書風が形成されています。

章法
文字と文字が接触するほどきつくなっています。文字の大きさは画数によって異なり横のラインはそろっていませんが、16字詰めということは維持されています。

成都
中国・四川省の省都。東漢のあとの三国(魏・呉・蜀)時代には蜀漢として劉備が治めた。また唐のあとの五代十国の時代には前蜀の都がおかれた。成都のある四川地方は木版印刷術の発祥地のひとつであった。唐代からの技術の蓄積があり、宋代においてもその技術が引き継がれた。北宋と金との戦争でも四川地方は戦禍をまぬがれたので、南宋による官刊本の復興に大きな貢献をはたした。四川刊本の特徴は文字サイズが大きいことで知られており、「蜀大字」とよばれている。その代表的なものが『周礼』である。

 原資料は『静嘉堂宋元図鑑』(財団法人静嘉堂、2002年)所収の『周礼〔しゅらい〕 巻第九の第1ページです。
『周礼』は、中国の儒教教典のひとつです。周王朝の官制を天地秋冬の六官に分けて記述したものです。六官とは冢宰〔ちょうさい〕・司徒・宗伯・司馬・司寇〔しこう〕・司空ですが、そのうち冬官は失われたため「考工記」で補われています。西周の周公旦の作と伝えられますが、成立は戦国時代以降のものといわれています。その成立については議論のあるところです。
 静嘉堂文庫所蔵の『周礼』は、東漢の鄭玄〔ていげん〕(127-200)が注釈をほどこしたものです。孝宗(1162-88)のころの刊行と思われます。巻第九・巻第十の二巻のみの残本ですが、同種の本はほかに知られていません。
 この『周礼』には多くの印記がありますが、とりわけめだつのが陸心源の蔵書印です。1907年(明治40)、清の陸心源の遺書として漢籍4,172部、43,996冊が購入されました。


■ファミリー展開

『多宝塔碑(書道技法講座5)』
(大平山濤著、二玄社、2009年)

『字音假字用格』は漢字カタカナ交じり文なので、カタカナはだいたい揃えることができました。「ネ」「ヰ」「マ」がありませんでしたので、書風をつかんだ上で新たに書き起こしました。
 そのほかの文字で大きく形姿を整えたのはありません。全体的に統一感を醸しだすように筆づかいや形姿を整えていきました。
『字音假字用格』は漢字カタカナ交じり文なので、カタカナはだいたい揃えることができました。「ネ」「ヰ」「マ」がありませんでしたので、書風をつかんだ上で新たに書き起こしました。
 そのほかの文字で大きく形姿を整えたのはありません。全体的に統一感を醸しだすように筆づかいや形姿を整えていきました。

まず『周礼』巻第九の第1ページを、デジタル・タイプによって再現してみることにしました。全キャラクターのうち、もっとも大きい文字がおさまるようにボディを仮に設定しました。
そのうえで、いかなる組み合わせになっても破綻がないように、字面サイズを揃えておかなければなりません。また極端な字間によって変形しているところもあるので、一字一字が単独でもバランスがとれるように修整を施しました。
双鉤工程においては、最初の段階では『周礼』巻第九の第一頁の文字を下敷きにしていますが、それだけでは細部に執着してしまいがちです。頻繁に出力して、その影印と見比べることを忘れないようにしました。そのうえで、太さを揃えたり、大きさを揃えたりといった活字書体としての統一性をはかりました。
この活字書体は本文用として考えましたので、『周礼』よりもかなり小サイズで使われることになります。そうなると下敷きの文字の横画や掠法の先端部分などでは細すぎて印刷の工程で無くなってしまうことが考えられます。そのために、横画や掠法の先端部分などを調整しました。
この書体の最大の特徴である「龍爪」はできるだけ尊重しましたが、一般的な使用に耐えられるように、いくぶん抑え気味になるようにしました。少しの解釈の違いでまったく異なる書体になるので、方向性を確かめながらすすめました。
日本語の文章を組むには、ここにはない多くの字種を揃えていかなければなりません。そのためには、『周礼』の1ページにあらわれているキャラクターの筆法・結法をしっかり把握して、それにあわせて、数千字におよぶキャラクターを作成していきます。
その際の問題点として、偏と旁などの空間処理があげられます。狭くすると引き締まった感じになって浙江刊本に近くなりすぎ、さりとて広くしすぎると散漫な感じになってしまうからです。

『菖蒲の若侍( 湯屋のお助け人)』
(千野隆司著、双葉社・双葉文庫、2011年)

『織田信長』
(桐野作人著、新人物往来社、2011年)

 

 

『古事記 神話と天皇を読み解く』
(菅野雅雄著、新人物往来社、2012年)