『ヴィネット』第05号

挑戦的和字の復刻
朗文堂   2002年7月23日発行   3.150円(本体3.000円)

古典のたかみにある名作和字の魅力を発掘して、その成立の背景と人物を探求。
復刻技法によって平成時代の電子活字に甦らせた挑戦的な意欲作。

序にかえて
仮名から和字への提案
あけぼの  粘葉本『和漢朗詠集』より
さがの  嵯峨本『伊勢物語』より
なにわ  近松門左衛門『曾根崎心中』より
あおい  陸軍所『歩兵制律』より
かもめ  『内閣印刷局七十年史』より
はなぶさ  博文館『少年工芸文庫』より
たおやめ  『日本印刷需要家年鑑』より
くれたけ  森川龍文堂活版製造所『活版総覧』より
ますらお  民友社活版製造所『活字見本帳』より
『ヴィネット』第11号

和漢欧書体混植への提案
朗文堂   2003年12月12日発行   3.150円(本体3.000円)

日本語書体とは和字書体・漢字書体・欧字書体の混植であるとして、
前作にひきつづいて復刻技法によって平成時代の電子活字に甦らせた挑戦的な意欲作。

序にかえて
和漢欧混植のすすめ
やぶさめ 定家本『更級日記』より
たかさご 金春本『風姿花伝』より
ばてれん 長崎版『ぎやどぺかどる』より
げんろく 三都版『世間胸算用』より
えど 仙鶴堂版『偐紫田舎源氏』より
はやと 吉岡書籍店『二人比丘尼 色懺悔』より
きざはし 安中商店蔵版『長崎地名考』より
さくらぎ 東京書籍『尋常小学修身書巻三』より
ことのは 博文館『辞苑』より
研究ノート・執筆記事など
◆『アイデア304号』 誠文堂新光社 2004年5月1日発行 2,910円(本体2,771円)

和字書体の歴史をつむぐ

内容:歴史から導かれた和字書体/和字書体を再生する

◆『ヴィネット第14号 文字の万華鏡』 朗文堂 2005年9月27日発行 1,995円(本体1,900円)

和字―限りなき前進

内容:さきがけ 『仮字本末』(1850年)/ふみて 『啓蒙手習之文』(1871年 慶応義塾)より/しおり 『ヨミカタ』『よみかた』(1941年 文部省)より/さおとめ 『尋常小學國語讀本巻八』(1901年 國光社)より/まどか 『富多無可思』4号楷書活字(1909年 青山進行堂)より/ほくと 『新考北海道史』(1950年 北方書院)より/うぐいす 『九州タイムズ』(1946年 九州タイムズ社)より/いしぶみ 『槙舎落合大人之碑』(1891年? 阪正臣書)より/くろふね 『沿溝書体スタイルブック』(1952年 孔版文化の会)より

◆『タイポグラフィ学会誌01』 タイポグラフィ学会 2007年8月1日発行

和字書体の書体分類と展開

オールスター・キャスト

欣喜堂「和字書体三十六景」は 4 パッケージとなり、モノグラム(Monogram)では 「STAR 」という晴れがましい名称の段階にきました。まさに「オールスター・キャスト」ということになります。

「継承」──Succession(サクセション)
Succession(サクセション)とは、「継承」という意味です。札幌・北方書院の書籍から、福岡・九州タイムズ社の新聞までの日本各地で、金属活字版、木版のみならず碑刻や謄写版印刷もふくめたさまざまな複製技術によって、現在までめんめんと継承されている資料をあつめ、再生をこころみたのが「和字Succession9」です。
※「 和字 Succession 9」の原資料・制作意図・制作経過などの詳細は『ヴィネット 14 号 和字──限りなき前進』(今田欣一著 2005年9月27日 朗文堂)に報告があります。

「伝統」── Tradition(トラディション)
Tradition(トラディション)とは、「伝統」という意味です。Traditional(トラディショナル)は形容詞形です。写本(藤原定家筆)、古活字版(キリシタン版)、木版(井原西鶴、柳亭種彦の著作、明治期教科書)、金属活字版(築地活版、弘道軒、博文館)。それぞれの時代、それぞれの複製技術で再製された文字形象は、現代にも通じるものです。これらの「THE JAPANESE TRADITION」にたいして真摯に向き合い、再生をこころみたのが「和字Tradition9」です。
※「和字 Traditional 9」の原資料・制作意図・制作経過などの詳細は『ヴィネット 11 号 和漢欧書体混植への提案』(今田欣一著、2003年12月12日、朗文堂)に報告があります。

「大志」──Ambition(アンビション)
Ambition(アンビション)とは「大志」という意味である。Ambitious(アンビシャス)は形容詞形です。わが国の活字書体の開拓にあたって、版下を描いた書家である、池原香穉、久永其頴、湯川梧窓をはじめ、研究者・企業家として大きな貢献をした、本居宣長、本木昌造、平野富二、吉川半七、江川次之進、青山安吉、津田伊三郎、寿岳文章らの「大志」をたたえて、この名称に「和字 Ambition 9 」を採用しました。

「校訂」──Revision(リヴィジョン)
Revision(リヴィジョン)とは「校訂」(書物の本文を照合、検討して、よりよい形に訂すこと)という意味です。とおく平安時代から室町時代の書写、桃山─江戸時代の木版の時代をへて、明治からはおもに金属活字組み版が見慣れた風景になっている和字書体の歴史のなかから、古典のたかみにあるよりすぐりの秀作を検討して、デジタル・タイプとして現代の文字組版システムに適合させたのが「和字Revision9」です。
※「和字 Revision 9」の原資料・制作意図・制作経過などの詳細は『ヴィネット 5 号 挑戦的和字の復刻』(今田欣一著、2002年7月23日、朗文堂)に報告があります。
漢字書体の開発ノート

 漢字書体は、わが国においては、和字書体、欧字書体とあらかじめ組みあわせた日本語総合書体として販売することになります。現在、欣喜堂で販売しているのは「龍爪」「金陵」「蛍雪」の三書体です。開発中の「志安」をふくめた四書体の開発までの経緯をふりかえってみます。
 欣喜堂・漢字書体の初登場は、拙著『Vignette05 挑戦的和字の復刻』(2002年、朗文堂)での、和字書体の組み見本のための試作でした。さらに『Vignette11和漢欧書体混植への提案』(2003年、朗文堂)で本格的な取り組みを開始しています。漢字書体もまた『Vignette』の企画からはじまったといってもいいでしょう。

龍爪

『Vignette05 挑戦的和字の復刻』では、「かもめ」の組み見本のために「成都」という仮称で制作しました(106-107ページ)。さらに『Vignette11 和漢欧書体混植への提案』では、宋代の四川刊本『周礼』との比較を掲載しています(18-19、24ページ)。
 その後、商品化が決定し、名称を書体のイメージにあわせて「龍爪」としました。「かもめ」のほかに、黎明本様体に分類される「もとい」「さきがけ」をくわえた三書体を組みあわせた総合書体として、2008年7月に発売しました。

志安〔開発中〕

 この書体の初登場は『Vignette11 和漢欧書体混植への提案』で、「建安」という仮称で制作しました。元代の建安刊本『分類補註李太白詩』との比較を掲載しています(20-21、24ページ)。
 その後、名称を「志安」として開発をすすめていますが、その制作は困難をきわめており遅々としてはかどっていないというのが現状です。『Vignette11 和漢欧書体混植への提案』所収の「ばてれん」「げんろく」のほかに、明治時代の金属活字書体をベースにした「ひさなが」をくわえた三書体を組みあわせた総合書体としての発売を考えています。

金陵

『Vignette05 挑戦的和字の復刻』では、「あおい」の組み見本のために「金陵」という仮称で制作しました(87、88-89ページ)。さらに『Vignette11 和漢欧書体混植への提案』では、南京国子監本『南齊書』との比較を掲載しています(16-17、24ページ)。
 その後、商品化が決定し、名称はそのまま「金陵」としました。「あおい」のほかに、明治本様体に分類される「きざはし」「さおとめ」をくわえた三書体を組みあわせた総合書体として、2004年7月に発売しました。

蛍雪

『Vignette05 挑戦的和字の復刻』では、「はなぶさ」の組み見本のために「杭州」という仮称で制作しました(124-125ページ)。さらに『Vignette11 和漢欧書体混植への提案』では、宋代の浙江刊本『姓解』との比較を掲載しています(18-19、24ページ)。
 ところが仮称「杭州」では他社書体との差異が小さいなどの理由から商品化が見送られ、あらためて検討をした結果、清代の官刻本『全唐文』をベースにした「蛍雪」を制作することになりました。「はなぶさ」のほかに、「まどか」「さくらぎ」をくわえた三書体を組みあわせた総合書体として、2006年3月に発売しました。

※『Vignette11 和漢欧書体混植への提案』に掲載された仮称「杭州」は名称を「西湖」として、「洛陽」とともに「漢字書体二十四史」に含んでいますので、いつの日にか商品化することがあるかもしれません。
※『Vignette05 挑戦的和字の復刻』で試作していた仮称「大都」は、ベースになる資料を『集王聖教序碑』とした「聖世」に変更し、これを「漢字書体二十四史」に含んでいます。また仮称「御家」はベースになる資料を『御家千字文』とした「臨泉」として「漢字書体二十四史外伝」に含んでいます。

往時の欧字


『ヴィネット 11 号 和漢欧書体混植への提案』(今田欣一著、2003 年 12 月 12 日、朗文堂)の25ページから29ページに、欧米からの招来とみられる欧字書体にふれています。そののち、総合書体の開発にあたり欧字書体が必要となったため、制作のヒントとしてとりくんでいます。


HIRADO
長崎県北西部の島にある平戸は、1550年(天文19年)から1641年(寛永18年)まで、ポルトガル、オランダ、イギリスとの貿易港として海外文化に接触していました。イギリス商館跡、平戸和蘭(オランダ)商館跡、フランシスコ・ザビエル記念碑、三浦按針の墓があります。現在、「平戸オランダ商館」の再現計画がすすんでいるようです。この時代に平戸をおとずれたイギリス人やオランダ人は、もしかするとヴェネチアン・ローマン体で組まれた書物を読んでいたかもしれません。
フランス人の印刷者、ニコラ・ジェンソン(1420―1481)の活字を使用したのがプリニウス著『博物誌』(1472年)です。この『博物誌』からキャラクターを抽出し、あらたに制作したのが「HIRADO」という欧字書体です。その名称は、16世紀から世界航路の結節点となった平戸からとりましたが、「HIRADO」は平戸島とは直接の関係はありません。

AMAKUSA
天正遣欧少年使節は、1582年(天正10年)に九州のキリシタン大名、大友宗麟・大村純忠・有馬晴信の名代としてローマへ派遣された4名の少年を中心とした使節団で、彼らの持ち帰ったグーテンベルグ印刷機によって日本語書物の活字版印刷が初めて行われました。当初のコレジオは島原(加津佐)でしたが、のちに天草に移転したため、その時期の出版物は「天草版」とよばれます。「 天草版」では、ローマ字によって印行された『平家物語』( 1592年)、 『伊曽保物語』、『 金句集 』( 1593年 )などがあります。現在、天草コレジヨ跡と推定される場所に記念碑がたてられています。
フランスのクロード・ギャラモン(?―1561)の活字は、『ミラノ君主ヴィスコンティ家列伝』(1549)など、パリの印刷人によって多くの書物にもちいられました。「天草版」とほぼ同時代の『ミラノ君主ヴィスコンティ家列伝』からキャラクターを抽出し、あらたに制作したのが「AMAKUSA」という欧字書体です。「AMAKUSA」は天草版とは直接の関係はありません。

SATSUMA
薩摩藩の第8代藩主、島津重豪(しまづしげひで)(1745―1833)は学問に興味を深く示し、西洋文化にも造詣が深く、中国語のほかオランダ語も話せたといわれます。1771年(安永元年)には藩校・造士館を設立し、教育の普及に努めました。1773年(安永2年)には、暦学や天文学の研究をおこなう明時館(天文館)を、1774年(安永3年)に医療技術の養成のために医学院を設立しました。このとしの8月には前野良沢らの『解体新書』が刊行されています。現在、「造士館跡」「医学院跡」は鹿児島市中央公園になっています。
イギリスのジョン・バスカーヴィル(1706―75)のグレート・プライマー(18ポイント相当)活字で、古代ローマの詩人ウェルギリウスの『田園詩と農事詩』(1757年)が組まれています。この『田園詩と農事詩』からキャラクターを抽出し、あらたに制作しようと考えているのが「SATSUMA」という欧字書体です。その名称は、オランダ語に傾倒していた島津重豪の薩摩藩からとりましたが、「SATSUMA」は薩摩藩とは直接の関係はありません。

DEJIMA
出島は1634年に長崎に築造された人工島です。江戸幕府の鎖国政策の一環として、1641年から1859年まで、オランダとの貿易がおこなわれました。旧出島オランダ屋敷跡(現在の出島資料館分館)が、「出島版」と呼ばれる印刷物をうみだした出島阿蘭陀印刷所のあったところです。海軍伝習所の教官だったゲー・インドマウルがオランダ本国から活字版印刷機材一式をもってきて、オランダ語で組まれた『TRAKTAAT』(和蘭条約書、1858年)などを印刷しました。
イギリスのリチャード・オースティン(?―1830)は、1809年から1812年ごろにかけてウィリアム・ミラー活字鋳造所のために活字書体を手がけました。これを再刻したイギリスのモノタイプ社の「スコッチ・ローマン(SCOTCH ROMAN)」を参考にして制作しようと考えているのが「DEJIMA」という欧字書体です。その名称は、出島版からとりましたが、「DEJIMA」との直接の関係はありません。